湯田川温泉神楽
「湯田川温泉神楽」は、湯田川温泉で永きに渡り親しまれてきた神楽で、その起源は定かではないが、盛んに演じられるようになって400年は経つといわれています。湯田川温泉の神様がまつられているという由豆佐売神社では、土用の丑の日にお湯が生まれ変わることを祝う「温泉清浄祭」が行われます。昔からこの日に湯治すると風邪をひかないといわれ、「丑湯治(うしとうじ)」とも呼ばれています。そして毎年、土用の丑の日とその前日の2日間、温泉街では湯田川温泉神楽が上演されます。
土用の丑を目前にした日の夜、湯田川温泉の奥にある湯田川温泉会館から、お囃子の音が聞こえてきました。コロナ禍においてずっと触れることのなかった懐かしいお祭りのお囃子。そのリズムに引き寄せられるように中に入ると若い人から幅広い年代の男衆が湯田川神楽の練習をしていました。その中心で音頭を取っているのは、湯田川温泉神楽保存会の会長の大井康博(72歳)さん。湯田川温泉神楽保存会は昭和30年に発足し、そのメンバーは現在20代から70代の25名で活動しています。メンバーは全てここ湯田川に住んでいて、親子で参加している人も4組います。
神楽の練習は基本的に月に一度。日中はそれぞれが仕事をしているので、練習が始まるのは、いつも夜の7時半頃からで12〜13人が集まります。かつては、2月に寒稽古を1週間していたこともあったとか。現在「湯田川神楽」の台本は、獅子舞、鳥刺し舞、吉原踊り、神楽囃子の4本。「とにかく愉快な神楽で、笑いが溢れるのはこの『湯田川温泉神楽』だけではないかな。昔は、温泉旅館を神楽がまわると、子供がずっとついてきたものだった」と大井さんはいいます。
「ちょんべ」と呼ばれる「ひょっとこ」を演じる村上光央さん(48歳)は28歳の頃から演じてきました。もの心ついた子供のころから湯田川神楽を楽しみにみてきたという村上さん、まさか自分が「ひょっとこ」を演じることになるとは思っていなかったそうです。それまで永きに演じてきた佐々木浩さんが高齢になり、大井さんにスカウトされたのです。やればやるほど、どんどん「ちょんべ」に自分自身が引き込まれていきました。「湯田川神楽はふざけたいやらしさ、邪道、品がないとかいわれることもあるが、一度みた人にはセンセーショナルで忘れられないはず」と村上さんはいいます。
三味線の伊藤俊一さん(45歳)も、やはり26歳の頃笛から神楽のメンバーに加わりました。今はまだ先輩である高橋吉和さんの姿をみながらその技を受け継いでいます。湯田川神楽のお囃子には実は楽譜がありません子供の頃から聞いてきているので、耳に音もリズムも残っているのだとか。
湯田川温泉入口の大提灯が灯る頃、頭に吉原かぶりの豆しぼり、腰に貝ノ口男結び、そして背中に大きく「湯田川」足元におかめとひょっとこの浴衣がなんとも粋な男衆が一人、二人と正面湯の前に集まってきました。一同は正面湯から由豆佐売神社へと向います。
由豆佐売神社に「湯田川温泉神楽」が神事として奉納されます。神主さんが見守る中、お囃子と共に凛とした獅子が舞います。そこにひょっとこの姿はありません。
神社での奉納の舞が終わると一行は、温泉会館に戻り陽が落ちるのを待ちます。夜8時になると正面湯の前には、どこからともなく、人が集まってきました。
獅子が豪快にそして凛として舞います。と、そのうち獅子が眠りにつくと、どこからともなくちょんべ(ひょっとこ)が現れます。そのふるまいは滑稽でその場の観客を一気に引き込みます。眠りから目覚めた獅子が豪快に舞観客のすぐ目の前にやってきます。笛、太鼓、しゃみせん、楽器同士の呼吸が獅子とひょっとこの舞を引き立てます。こんなにも楽しく、観客と一体となる神楽があるでしょうか。実は、このちょんべ(ひょっとこ)の悪ふざけは、災いを意味するもので、それを獅子が退治することで、無病息災を願うというストーリーになっているのです。
地域に祭りがあり、若者がそれを盛り上げているところには活気があります。地方の人口減少で祭り自体が減ってきている中、「湯田川温泉神楽」はここ湯田川温泉に暮らす人にも、訪れる人にも活気を与えてくれる存在となっています。湯田川温泉の湯も魅力ですが、この「湯田川温泉神楽」を一度は見ていただきたいと思います。
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- 湯田川温泉観光協会
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