焼とり ひで
『焼とり ひで』は湯田川温泉にある唯一の居酒屋であり、およそ70年もの歴史を持つ名店だ。昔懐かしい雰囲気の店内で、陽気な店主とのお喋りを楽しむ。そんな時を過ごすのもまた旅の醍醐味。湯田川温泉に連泊するなら一晩はふらりと出かけてみるのも楽しいだろう。
まずはビールで乾杯。趣のある店内にKIRINの瓶ビールが似合う。メニューは豚のホルモンなど焼きトンが中心だ。遠方から訪れた方は驚くかもしれないが、庄内では焼きとんのことを焼きとりという文化がある。メニューには、つくね、タン、ハラミなど親しみ深いものから、ヘラ、テッポウなど通好みの部位まで幅広く用意されている本格派。
大ぶりのお肉は柔らかくてジューシーで、そのレベルの高さはひと口食べてすぐにわかる。それでいて観光地とは思えないリーズナブルな価格設定。地元にはたくさんのファンがいる人気店で、焼き鳥の味は鶴岡市で一二を争うほどだと評判だ。仕事を終えた湯田川の宿のご主人とばったり、なんてこともあるかもしれない。ふっくらとして柔らかいつくねはタレも塩も捨てがたい。
昭和27年に湯田川地区でリヤカーに焼きとりを並べ販売したのが『焼とり ひで』の始まり。現在の場所に店舗を構えてからしばらくは、『焼き鳥ひろみ』と『BAR Hide』の2店舗で営業されていたという。貴重な当時のマッチを見せていただく。現在の店主、秀人さんは以前バーテンダーであったというから驚きだ。
焼きとりと庄内の日本酒で至福の時間。厚揚げやししゃもなどの居酒屋メニューが充実しているのも嬉しい。温泉に浸かった後の身体はぽかぽかとして、いつもよりなんだかいい気分に。すこし飲み過ぎたとしても、宿までは歩いてすぐに帰れる距離だから気持ちが緩んでリラックスモード。
カウンターには店主とのお話しを楽しむ人、テレビを見ながらひとりで味わう人、若いカップルの姿も。お座敷もあるので家族連れでも安心だ。隠れた名物のジャガピざは子供達にも大人気。おにぎりや麦きりも締めに欠かせない。(麦きりとは庄内の人が好んで食べる細くて平たいうどんのことで、さっぱりして締めにもぴったりなので是非試して頂きたい。)
満たされた気分で温泉街に出ると、暖かく光る提灯が見送ってくれた。『焼とり ひで』で過ごす夜。これもまた最高な湯田川温泉の過ごし方のひとつだ。
- ・投稿者の名前:
- すずき まき
- ・プロフィール:
- 写真家。2020年、生まれ育った横浜市から鶴岡市にiターン移住。 温泉と猫をこよなく愛している。
- ・SNSやホームページへのリンク系:
- https://www.instagram.com/maki.suzu.ki/