- 2021.12.14
- ますや旅館
- 古くから湯治場として愛されてきた湯田川温泉。『ますや旅館』には今でもその名残りでプチ湯治をしに訪れる昔馴染みの客が多く、長く愛されてきたお宿だということがよくわかる。アットホームという言葉がぴったりな温もりのある温泉宿。家族で営む小さな旅館ならではの心地よい雰囲気で、親戚の家に帰省するような感覚で何度でも訪れたくなる。 名物は古代檜で作られた貸切風呂。空いていればいつでも入れるスタイルで、滞在中は何度入ってもいい。湯田川温泉の良質な湯を独占して楽しめるのは贅沢そのもの。以前はタイル貼りだったという貸切風呂は、平成の初期に檜に改装されたという。味のある檜の浴槽に湯気が広がり、見た目にも趣きがある。ゆっくり浸かれば、身体が芯からほぐれて元気になっていく。 『ますや旅館』といえば、湯田川の旬を生かした料理が人気。特に評判が高いのは手作りのあんかけ、そして何と言っても春の孟宗膳。(孟宗とは、庄内地方で採れる筍のこと)ご主人の良徳さんが竹林に入り収穫をしたばかりの孟宗が、女将によって美味しい料理に姿を変える。新鮮な孟宗を食べたことのない人は、サクッとした軽快な歯ごたえと甘さに驚くだろう。 夏は岩牡蠣、秋は在来野菜のかぶ御膳、冬には庄内名物鱈のどんがら汁 等々。旬の食材を使用する料理の数々は、決して派手ではないものの、ひとくち食べてみると沁み渡る、とても家庭では作ることのできない美味しさだ。旬の食材を食すことで、大地のパワーを存分に受け取る。湯田川温泉に特別なものはひとつもないけれど、根源的なものが全て揃っている。口コミでも人気の朝食バイキングもお楽しみのひとつ。 オレンジ色のあたたかい光が印象的な館内。お部屋の入り口に置かれた行燈も手作りだ。綺麗な竹を乾燥させて行燈に作り変えるというのだが、この作業がなかなか難しいという。乾燥しすぎると縦に亀裂が入ってしまうし、綺麗に切れたと思ったら、ライトの熱で割れてしまう。一筋縄でいかない竹だが、湯田川らしいその姿にこだわりを持って作り続けてきた。 東日本大震災以降、毎年3月11日には竹灯籠のライトアップを行なった。雨の日や風の日も多かったが、10年間湯田川の温泉街を優しく灯してきた。まるで『ますや旅館』にいくと感じる温もりが、そのまま光として表現されているようなキャンドルナイトの風景。日々の生活の中でつい忘れてしまう人のぬくもりや温かさを肌で感じるようだ。 おかえりなさいの宿 湯田川温泉『ますや旅館』は、現代の疲れを癒し訪れる者に元気をくれる。 湯田川温泉『ますや旅館』公式HP:https://yu-masuya.net 写真提供:湯田川温泉観光協会
- 2021.11.23
- 九兵衛旅館 / 別館 珠玉や
- 『九兵衛旅館』といえば、静かに過ごせるプライベートな空間と源泉掛け流しのお湯、そして料理の味に定評がある湯田川温泉きっての人気宿だ。全室13部屋の小さなお宿ながらも、メゾネットタイプやお風呂付きの客室もあり、ここでの滞在を目的として遠方から訪れる者も多い。単なる観光の拠点としての宿泊ではなく「この宿に泊まるために庄内を訪れる」という風に、目的地にする価値のある宿である。 湯田川温泉のメインストリートから少し中に入ったところにこじんまりと佇んでいて、隠れ家的なお宿という表現がぴったりな『九兵衛旅館』。実際に訪れるまではその口コミ点数や世評の高さを不思議に思うかもしれない。そこで、社長の大滝研一郎氏にお話しを伺いながら、その人気の秘密を紐解いてみたいと思う。 記録によると『九兵衛旅館』は、江戸時代の中期に創業され、温泉宿としては長い歴史がある。その旅館を継ぎ、現在の様式に作り変えたのが11代目の大滝社長だ。 大滝社長『平成15年のリニューアルの際に現在のスタイルになりました。それまでは、老人クラブやスポーツ団体、湯治客などの比較的低料金のお客様から、料金の高い一般個人客まで、客層が幅広い旅館でしたが、少子高齢化や人口減少、団体客の減少等により、将来的な時代の流れを見て、ご夫婦や少人数グループで過ごして頂くのに最適なプライベート重視の宿に変えることにしたんです。宴会場をなくして、個室のお食事処を作るなどの改修を行いました。 その数年前、平成10年頃だったと思いますが、現在の調理長を迎えて、従来の女将が腕を振るう手料理から和食調理人による料理の宿になりました。今でも手作りに拘り、地元の食材を出来立てでお召し上がりいただくことを重視しています。料理に合わせて地酒も楽しめるように庄内の18酒蔵のお酒を揃えたり、県内のワインと合わせて堪能して頂けるようご用意しています。調理長をはじめ、厨房スタッフみんなが頑張ってくれています。』 宿の女将や主人が作る素朴な料理を出す旅館から、料亭のような本格的なお食事が楽しめる旅館へ、そして団体向けから個人向けのプライベート重視の宿へ。こうした変化が現在の『九兵衛旅館』の高い評判に繋がったという。 大滝社長『どれだけ歴史があったとしても、それだけで残っていけるわけではない。世の中の流れに適応していくことが重要だと思います。これは宿泊業に限ったことではなく、世の中の仕事って全部そうですよね。』 滞在中の居心地の良さについて、お客様の感想は様々だ。 床は冬でも裸足で歩けるほど暖かく快適だ 浴衣でなく作務衣が用意されているのでゆっくり過ごすのに嬉しい 藤沢周平の図書コーナーがあり外に出なくても庄内の風土を感じた お部屋にはブルーレイレコーダーがあって、ゆっくり過ごせる 貸切風呂は予約なしで空いていればいつでも利用出来るのも嬉しい (館内にも貸し出し用のDVDが用意されている) 従業員の対応が良く、その丁寧さに驚いた 等々 ひとつひとつは小さなことでも、確かに居心地の良さに繋がっているような優しい配慮。『九兵衛旅館』の評価の高さは、そのスタイルや設備だけではなく、普通は見逃してしまうような小さなニーズにも気づいて変化を続けてきた積み重ねによるものなのかもしれない。 そして、忘れてはいけないのが『九兵衛旅館』の別館『珠玉や』の存在。本館に比べるとリーズナブルに宿泊することが出来、小さなお子連れも歓迎している。3つの貸切風呂が自慢の宿で『九兵衞旅館』とはまた異なるモダンな趣きがある。別館『珠玉や』があることで、更に幅広い層のファンが増えていくのだろう。 これを読んで『九兵衛旅館』そして別館『珠玉や』へ興味を持った方は、早めのご予約を。湯田川温泉を代表する人気宿。特別な日に、大切な人と過ごすのにはこれ以上にない温泉宿だ。 【湯田川温泉 九兵衛旅館 公式HP】http://www.kuheryokan.com 【九兵衛旅館 別館 珠玉や 公式HP】http://www.kuheryokan.com/tamaya/
- 2021.09.27
- 仙荘 湯田川
- 「今日もあなたに素敵なことがありますように。」ロビーに明るい声が響いた。満面の笑みでお客様をお見送りするのは、女将のひろみさん。傍らには猫の“なび”がいて、つぶらな瞳でエントランスから外の景色を眺めている。 これが、『仙荘 湯田川』のいつもの風景。韓国から日本に来て30年あまり、旅館の仕事一筋で生きてきた女将ひろみさんが、7年前にはじめた『仙荘 湯田川』は、一度訪れるとまた来たくなるリピーターに愛される宿だ。 何と言っても一番の魅力は女将の人柄だろう。明るく楽しいおしゃべりで旅気分を盛り上げたかと思えば、滞在中は気兼ねなく過ごせるようにと、すっとカウンターの裏へ入っていく。その距離感がとても心地よく、決して型にはまることのないオリジナルのおもてなしは、ここに訪れる一人一人への思い遣りに満ちていると感じるのだ。 お客様にとって本当に過ごしやすい快適な空間を作ることを第一に考えられている。訪れる人々が日々の疲れから解放され、思うがまま、自由に、気楽に過ごしてもらえるように。 ひろみさんが宿泊業と出会ったのは、今から25年以上前。隣町の酒田にある温泉宿で働きはじめたことをきっかけに、温泉文化の魅力を知ったという。旅館で働きながら日本語を学び、休みの日には、近隣の湯野浜温泉・あつみ温泉は勿論のこと、その他にも東北6県の様々な旅館を訪れた。日本の温泉文化は世界一だと感じた一方で、決して居心地が良いとは言えないお宿もあり、反面教師になったことも。こうした経験のひとつひとつが『仙荘 湯田川』のおもてなしに表れている。 「感謝、感謝。まだまだ歴史の浅いこの宿を選んでくれたことに感謝。30年間日本でお世話になったので、日本のために何かしたいという気持ちでお客様をお迎えしています。」そう話す女将の表情はとても明るく、優しい。この笑顔が印象に残り、ついまた会いたくなるのだろう。 お花、植物、囲炉裏に火鉢。館内にはお客様からもらった品々が並んでいて、そのファンの多さが伺える。望遠鏡で星を見たり、ハンモックに揺られたりと他の旅館にはない楽しみもあり、お子様の「仙荘に行きたい!」というリクエストでいらっしゃるご家族もいるという。 『仙荘 湯田川』を語るときに忘れてはいけないのが猫のなび。現在は2代目のナビが若旦那としてお客様をお迎えしている。その可愛さにはファンも多く、Instagramのフォロワーは1万人超え。横浜に住まうフォロワーの方がなびに会いに湯田川温泉を訪れたこともあった。看板猫のなびは、小さくて丸い身体に宿したエネルギーと宝石のように輝く瞳で来る者を癒している。 ひろみさんとなび、そして湯田川温泉のお湯に、食べきれないほどボリュームのある和食のお料理。まだ『仙荘 湯田川』に行ったことがないという人は、是非一度泊まってみてはいかがだろうか。きっと湯田川温泉の新たな一面に出会えるはずだ。 <仙荘湯田川 公式HPへ> <若旦那なびのInstagramへ>
- 2021.08.30
- 隼人旅館
- 湯田川温泉で400年以上続く「隼人旅館」は、鶴岡の歴史と文化を色濃く感じられる宿だ。江戸時代よりずっと前からこの地で人々を迎えてきた。一体いつからあるのか、詳細は不明だが、湯田川温泉は開湯1300年。平安時代からこの土地にあったとしても不思議ではないのだ。 そんな歴史ある「隼人旅館」で、主人の庸平さんにお話しを聞くことが出来た。 この旅館は古くから、湯治宿として人々に愛されてきたという。かつての湯治では、1週間をひと回りとして、ふた回りする方も少なくなかったそうだ。人々が忙しくなってしまった今では、そんな湯治文化も、随分と贅沢なように感じられる。その一方で、気が済むまで湯に浸かり、心と身体の健康を取り戻す湯治というのは、現代人にこそ必要だという気もする。 (かつての「隼人旅館」。昭和40年代に改装後、現在の姿になった。) そこで現代風に湯治をアレンジするとしたら、主流となるのは3日湯治だろう。もう少し休みたい人には、3日、4日、1週間でも、好きなだけ泊まって、ここから仕事に通うのも良い。「ただいま」と帰ってくるのに違和感のない、まるで自分の家のような不思議と落ち着く雰囲気がこの宿にはある。 湯田川のお湯は透明で、優しいのにパワーがある。源泉のすぐ近くにある「隼人旅館」の湯は、加水、加温、循環なし。正真正銘、本物の源泉掛け流しを楽しむことが出来る。湯船は小さく、湯量は多い。このお風呂に一度でも入れば、「隼人旅館」の価値の高さが分かるだろう。全国の温泉好きにもファンを多く持つ、通好みの宿だ。 庸平さんは山伏でもあり、出羽三山詣の拠点としても最適だ。電車や飛行機、車さえない時代から出羽三山詣の旅人が、何キロも歩いてたその足で「隼人旅館」に辿り着き、疲れを癒した。山伏の役割は、自然の霊力を身に着け、自然と人、そして人と人をつなぐこと。この宿を営み、ホラ貝の音でお客を見送るのは、庸平さんにしか出来ない山伏の仕事だ。一人旅も歓迎のこの宿を「生まれ変わりの旅」の拠点として利用したい。 この宿を語る上で、外せないのが「新徴組」。「江戸のお巡りさん」と言われ、幕末に活躍した浪士組「新徴組」が、戊辰戦争が始まり庄内藩の江戸引き上げと共に庄内に移り、湯田川温泉を拠点とした際に、本部として使用されたのが「隼人旅館」だ。「新徴組」に関しては、他では見れない資料の宝庫。当時の残留品として、弾薬庫や、清河八郎が使っていた小刀も見ることが出来る。 清河八郎といえば、彼の両親もまた、「隼人旅館」に泊まったという記録が残っているそうだ。清河八郎とその母親が、お伊勢参りに出かける際、1日目に泊まったのが湯田川温泉だった。古くから、伊勢神宮に詣でることを「西の伊勢参り」といい、これとセットで出羽三山に詣でることを「東の奥参り」と称し、双方を詣でることは人生において重要な儀礼のひとつとされていたという。清河八郎も母と共に、湯田川から西のお伊勢様を目指したのだ。 人はなぜこれほど幕末の歴史に惹かれるのだろうか。歴史というには少し近い、手を伸ばせば届くような歴史と今の狭間、「隼人旅館」はまるでその狭間にある空間のようだ。 お部屋は全8室で、最大4組のお客しか受けないというので、今の世の中でも安心して利用出来る。お食事は女将の久里子さんを筆頭に、家族で手作りする日本料理。食材はその時々の美味しいものを、海のものから山のものまで何でも手に入る湯田川で、新鮮な食材を使った身体に優しいお料理を提供している。 歴史と温泉に浸かる浪漫の宿、「隼人旅館」。是非、一度は訪れて頂きたい宿だ。 【湯田川温泉 隼人旅館 公式HP】http://www.hayato-ryokan.jp
- 2021.07.09
- つかさや旅館
- つかさや旅館 湯田川温泉の中心地、正面湯のすぐ隣に佇む「つかさや旅館」は、江戸時代から続く老舗の温泉宿。1日4組限定で泊まれる少人数制の宿で、2種類ある温泉はどちらも貸切りで楽しむことができます。「ゆったりの湯」と「こじんまりの湯」はどちらも、勿体ない程の掛け流し。次々に湧き出るお湯が湯船から溢れ出し、いつでも一番風呂のようです。 つかさや旅館といえば、料理の味も評判です。ご主人とその母である大女将が作るお料理は、上品で繊細な味わい。単なる田舎料理を想像していると一歩上をいく美味しさに驚くことでしょう。地域の食材を生かし、季節により異なるメニューを提供していて、5月には湯田川の名物である採れたての孟宗も楽しめるのです。素材の味を最大限に引き出す料理の数々は、丁寧さと真ごころの賜物。毎日でも食べたい健康的な味わいが、身体に負担をかけることなく染み渡っていきます。 この食事に合わせて楽しみたいのは、やはり日本酒。つかさや旅館では、日本酒好きのご主人、丈彦さんが厳選した庄内の日本酒を取り揃えています。特筆すべきはその種類の多さで、3種、6種、10種の飲み比べや、料理に合わせたペアリングもオーダー可能。ここまで日本酒に特化した宿は、庄内全体で考えても貴重な存在です。 丈彦さんは「山形の日本酒は本当においしい」と話します。「他の土地から来た人に、もの土地で作られた日本酒を飲んでもらうことは価値ある経験になる。私たちの住む土地の食材を食べてもらうのだから、お酒も地元のもので合わせたい。」地物を使ったお料理と日本酒は最良の組み合わせと言えるでしょう。 子供連れ歓迎の宿 湯田川温泉で子供連れでも泊まれる宿を探している方には、つかさや旅館をお勧めします。 「子連れの方にも気兼ねなく利用してほしい」というのは女将の愛恵さんの言葉。 「子供が泣いて寝られないことがあったとしても、それもまた思い出になるので気兼ねなく来て欲しい。」と話します。女将自身も子育てをしながら営業している為、つかさや旅館にはいつも子供たちがいて、どこか親近感の湧く親戚の家に遊びに来たような雰囲気。 通常子連れ可の宿であっても、気を遣うことの方が多いものですが、この宿は違います。「子連れ可」ではなく「子連れ歓迎」、泣くことまで歓迎の宿は珍しいものです。「お母さんの気が少しでも休まればいい」と言い切る心強い女将です。 女将の原動力 そんな女将ですが、20代で湯田川に越してきた当初は苦労もあったといいます。若女将になったものの、新しい土地に温泉街という環境の中で、「何かしたいけど出来ない」というもどかしい時期が続きました。それでも目の前のことを常に全力で取り組んでいると、協力者が増えていきました。 女将になり、やりたいことが形にできるようになった今でも、決して満足することなく進み続けています。「まだまだ色々な人と繋がりたい。全国の頑張っている人と一緒に、常に挑戦し続けたい。もっとお客様に楽しんでもらいたいという気持ちが幅広い興味につながっている。」 まず湯田川に来てもらいたい 2021年3月、つかさや旅館の1階が、ワンフロアの大きなスペースに生まれ変わりました。旅籠ーhatagoーと名付けられたその場所は、開かれたスペースとして利用されています。カフェ営業をスタートし、イベントが出来るようにと、日曜日を旅館の定休日にするという思い切った決断をしました。「ここに来るハードルを下げて、これまで湯田川と縁のなかった人にも知ってもらえるきっかけを作りたい。」 その結果、今では利用した人同士が繋がっていく、新しい輪が出来ています。 女将の”考える前にまずやってみよう”の精神が、沢山のご縁を繋いでいるのです。 江戸時代から続く老舗旅館に吹く新しい風。人と人、新しいアイディアが交差するこの宿は、人の歩む速度で、地域に寄り添いながらゆっくりと進化を重ねてきました。 新しいものを生み出すことはなかなか難しい時代でも、掛け合わせ次第で新しいものが生まれることを教えてくれます。開かれた空間でどんなお客様も歓迎してくれる心の広いお宿、それが湯田川温泉の「つかさや旅館」なのです。 ◯つかさや旅館 公式HP <https://www.tsukasaya.gr.jp> ◯インスタグラム<https://www.instagram.com/tsukasayaryokan_shonai/>