- 2022.12.12
- “芽が出る“かも??のご利益を願って
- 秋晴れの続いた10月最初の日曜日。 湯田川温泉旅館協同組合の新たなチャレンジ「体験ツアー造成」のための、モニター体験会が開催されました。青く澄み渡る広々した空に、収穫期の黄金色の稲。そよそよと涼風に揺れる稲の音。 この日集まっていただいたのは、鶴岡市にU・Iターンしたご夫妻や家族連れなど8名の皆さん。ほとんどの方が、初めての体験です。最近は田舎においても、稲を手刈りしたり、天日干しのための杭がけは、滅多にできる経験ではなく、地元のスタッフも稲穂を使って稲束をまとめる練習を事前に行ったほど。 先生は、田んぼの主の伊藤さんとその師匠、後藤さんご夫妻。お二人とも、湯田川に伝わる在来作物“藤沢カブ”の生産者さんでもあります。80歳過ぎの後藤さんご夫妻でも、なんと30年以上ぶりの手刈りの稲刈りということでしたが、そのお点前はさすがのもの。速さが格段に違います。 参加した皆さんも、稲を掴む時の腕の向きから束ねるときの手首の返し方など、一つ一つと習いながら和気あいあいと進めていくと、あっという間に稲束の小山ができ、田んぼに残るは落穂のみ。次は、この稲の束を順に杭に掛けていく作業です。 一杭に40把を掛けるということで、1把ずつ運ぶのですが、見かけ以上にずっしりとした重さに、ちょっと驚きました。20把を交互に積み上げたところで一旦紐で縛ります。これは、上に積み重なる分が下まで加圧せずに、風通し良く乾燥させるための先人からの知恵だと、後藤さんに伺いました。 この日刈った稲で4本の天日干し杭ができました。この後は2~3回ほど、上下を返しながら約1ヶ月間、天日で十分に乾燥させて、脱穀に至るそうです。完成までは、まだまだ先のお楽しみ。 となると、目下のお楽しみは、心地よくかいた汗を流し、ぺこぺこのお腹を満たすこと。お昼の献立も、湯田川温泉ならではの在来作物をふんだんに使ったお料理です。まずは、芋煮に使われている“カラトリイモ”を実際に畑で見て、収穫体験。カラトリイモはほっこりとした親芋を食べる里芋で、その茎も生や干したりして調理します。 子供たちは葉や芋の大きさに大盛り上がり。 大きな葉っぱを傘に見立てたら…あれれれ⁈(笑) 外での作業でかいた汗を、ひとっ風呂!というのも、温泉ならではの贅沢なところ。 さっぱりすっきりした後は、お待ちかねの新米と在来野菜の昼食です。 この日の献立は、 ・新米つや姫の塩むすび ・カラトリイモで作る湯田川風芋煮 ・萬吉ナスの揚げ出し ・藤沢カブ間引き菜のけんちん ・カラトリ(カラトリイモの茎)のだだちゃ豆和え ・湯田川孟宗の佃煮 ・藤沢カブの浅漬け と、どれもが湯田川産の在来野菜たち。 中でも、萬吉ナスや藤沢カブは湯田川でのみ栽培されている貴重な在来作物です。素材の味を存分に活かした昼食に、参加者の皆さんも大満足で、芋煮をお代わりする方も続出。子供たちもついさっき実物のお芋堀りをしたことで、なんだかお椀の中のお芋に愛着が(笑)皆さん口々に「美味しかった~」「昼食が素晴らしかった~」「ここでしか食べられない食事」と、たくさんの笑顔が見られました。 さて、題目の「“芽が出る“かも??のご利益を願って」ですが、この度稲刈りを行ったのは、湯田川温泉の温泉水を使って芽出しをしたお米。湯田川では日本で唯一、大規模にこの方法で「イネの芽出し」を行っており、孟宗と並ぶ春の風物詩となっています。 「温泉水で芽出し」から着想を得て、芽出し→芽が出る と掛け、学業やスポーツ、商売や出世などの開運ご利益がありますようにと祈りを込めて、これから湯田川温泉ならではのお米と温泉の物語を紡いでいきます。 乞うご期待!
- 2021.04.30
- 湯田川温泉の梅まつり
- 梅の花が咲く頃と聞いて、何月を想像するだろう。 神奈川県出身の私は、梅はまだ肌寒い時期に咲くものだと思っていた。 以前から季節のお花を見るのが好きで 水戸は偕楽園の梅まつりに出かけたのも3月だった。 湯田川温泉の梅まつりは4月の第2週に行われる。 内陸に比べて雪が少なく、海沿いのために 比較的温暖だと言われている鶴岡もしっかり東北なのだと実感する。 湯田川温泉の梅林公園は 温泉街を歩いていても目につかない場所にあって 何度も湯田川温泉に来たことがある人でも梅林公園って一体どこなんだろう? と思ってしまうような場所にまるで隠れているかのようにある。 何度もその姿を見たことがある人たちは 梅が咲き誇る季節の梅林公園は桃源郷のようだと口を揃えて言う。 梅林公園は、桃源郷だから隠れているくらいがいいのだと思う。 温泉街の入り口からまっすぐに進み 正面湯を左手にみてもまだまだ歩いていくと梅林公園の看板が見えてくる。 案内に従って曲がり、階段を登った先が梅林公園だ。 梅まつりでは例年、湯田川温泉の女将が抹茶を点てお饅頭とともに振る舞うという。 (コロナ渦の今年は残念ながらお茶会は中止) 白とピンクの可憐な花を眺めながら春の訪れを楽しもう。 梅が終わればすぐに桜がやってくる。 春の湯田川温泉は、美しいものに溢れている。
- 2021.04.20
- やわらかな湯で自分の揺らぎを解放する
- やわらかな湯で自分の揺らぎを解放する 歴史ある温泉地の開湯由来にはいくつかパターンがあります。武将や翁が発見した説、かの弘法大師が見つけたという説、動物が絡む開湯説。湯田川温泉はこの3つめにあたります。葦の原に降り立った白鷺が湯で傷を癒しているのを発見されたという湯田川温泉は、山形県内で5か所ある国民温泉保養地の一つでもあります。 小さな温泉街ですが訪れるといつも気持ちが知らぬ間にほぐれているのが分かります。組合源泉を共同利用し、各宿の浴槽は小さめのところが多いですが、だからこそ源泉かけ流しの良さが活きるというものです。 ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩温泉の湯は源泉温度が42度。浴槽の湯口から注がれる湯は熱すぎずちょうどいい温度で、無色透明の湯はやわらかく、ゆっくりと浸かっていられます。それでいてしっかりと温まるのは、硫酸塩泉の傷や血管の弾力を回復に向かわせる作用からでしょう。 温泉成分による「温泉の定義」はあれど最終的に「いい湯」の定義は人により様々。泉質至上主義の人もいれば、小さなお子さんがいる方は、浴室や脱衣所は広くて清潔なことが最優先かもしれません。湯に浸かり、くぉぉ~っと思わず声が漏れる熱い湯が好きな人にとっては、もしかしたら湯田川の湯は物足りないかもしれません。でも私は、ふぉ~っと深いため息と共に体と、気持ちの奥まで溜め込んでいたものが解かれていくような優しい湯田川の湯が大好きです。 地元客にも湯田川ファンにも愛されている共同浴場「正面湯」に入った後、道を挟み参道が続く“正面にある”由豆佐売神社に一礼をする習慣が残っていたり(とはいえこの習慣はご高齢の方かな。)、共同浴場やお宿の浴室に注連縄が張られているのも、「当たり前ではない湯の恵み」に感謝の意があるからこそ。そもそも入浴は「湯垢離」という言葉があるように心身の禊をする行為でありました。毎日湯に浸かれるのが当たり前の現代と違い、湯治場の昔の方は、その貴重さを実感していたから浴室は清浄な場として結界の意味もあったのでしょう。 湯に性別は無いのに、体感として個人的に「湯田川の湯は女性らしい湯」だなといつも思います。自分が内観したい時などにゆるかやに手助けしてくれるような。それは成分的にはカルシウムの鎮静効果もあるのかもしれませんが、もしかしたら、この土地の“氣”も関係しているのかな、と。怪しい体感の謎を一人で考えていたら、由豆佐売神社の主祭神は溝織姫命という女神様ですし、境内には乳イチョウの木もあるな、とおあつらえ向きの後付け理由まで出てきました。「水は方円の器に随う」という禅語がありますが、形が無くいかようにも姿を変える水、土中の奥深くより湧き出る温泉は、私達が生まれる前からの太古の土地の記憶を含んでいる。そうして、そのエネルギーを湯を通して頂いている。そう考えると、また新たな湯田川の湯の良さや湯浴みの楽しさが見つかりそうです。
- 2021.04.20
- 湯田川の芽出し作業~お米の産湯
- 湯田川の芽出し作業~お米の産湯 温泉は、入浴や飲泉だけでなく広く利活用されています。例えば高温源泉を活かし、熱交換器システムで施設の給湯や床暖房、消雪に使うなど。そんな現代的な利活用でなくとも、温泉水そのものや温泉の蒸気を活かした料理など、欠かせない我々「人間の食」に結びつくような利用法は立派な「温泉文化」ですから、大切にしたいものです。 湯田川温泉で毎年4月に行われる温泉水を使った種籾の「芽出し作業」は江戸時代から続く伝統で、まさに「温泉文化」。 その年の稲作のスタートである芽出し作業。浸種といって、まず昨年刈り取った種籾を袋に入れ約10℃の水に数日間浸けた後、催芽機という機械に種籾を並べ32℃設定の水に浸し、その後保温します。 「芽出し」というものの、芽が伸びすぎるとその後に種蒔きで使う播種機に引っかかってしまうので、芽が膨らむくらいの状態、発芽するかしないか、いわゆるハトムネ状態の絶妙な加減でなければいけないそうです。 湯田川温泉では、催芽場に複数ある温泉水の水槽に浸けて芽出しします。それが可能なのは源泉温度が42℃で、余り湯が水路を通り催芽場の水槽に流れ着く頃には、ちょうど芽出しに最適な32℃前後になっているから。水槽には袋入りの種籾が12時間前後浸かります。半日浸かった種籾は、水槽に渡した枕木に並べられ臺を被せ、温泉の蒸気でそこから更に半日あまり蒸され発芽を促します。つまり、天然の催芽機になっているのです。もうね!ググってみてくださいよ、こんな催芽法、湯田川しかありませんから! この催芽法は、嘉永元年(1848年)に大井多右衛門が試行錯誤の上に生み出し、先人たちが改良して今に至るもの。江戸時代から脈々と受け継がれ行われる湯田川の芽出し作業は、今も変わらずリレー方式の手作業で、重さ8キロの袋を慣れた手つきで水槽に浸していきます。 今では庄内一円、そして新潟からも運ばれ、ピーク時になると催芽場に袋が壁のように積み上げられ、水槽にもびっしりと浸されます。外気温との差で水槽にもうもうと湯気が立つ様は、まるで「お米の産湯」のよう。 温泉国日本には、個性豊かな素晴らしい湯がたくさんありますが、もしこの湯が、もっと濃い成分で泉温も高く、塩分が多過ぎたり、酸性だったりしたら「産湯」として成り立ちません。湯田川の湯は芽出しに必要な絶妙な条件を満たしているからこそ、天然の催芽機であり、お米の産湯になっているのです。 そうして気持ち良さそうに「産湯」に浸かった種籾は田に植えられやがて秋、黄金色の稲穂が一面に広がる景色と共に、湯田川に美味しいお米となって戻ってきます。そして庄内の豊かな食材と共に私たちの口へと運ばれてゆくのです。だから、ね。孟宗筍の時期はもちろん、お米が産湯に浸かる光景が見られる春、そして鮭の遡上のように湯田川の産湯に浸かり美味しいお米になった秋も、柔らかな湯と共に湯田川の食、空気感を味わいにいらしてくださいね。 ※取材協力 JA鶴岡 営農販売部 米穀畜産課 課長 五十嵐浩紀さん 湯田川地区 石井邦也さん
- 2021.03.10
- 正面湯
- 温泉が大好きな日本人。人と温泉との関わりは縄文時代から続くと言われる。温泉と温泉地に心惹かれ、心身共に癒されるのは、何より地上に湧き出る源泉の温もりとその様々な個性であろう。そして温泉が湧き出る土地の街並みやそこで暮らす人々が長い年月を重ねて育んできた歴史と文化を丁寧に紐解くとその魅力が広がる。 湯の守り神 「由豆佐売神社」 日本には古くからいろいろな神さまがいた。田んぼの神は秋から春のあいだ、山に帰って山の神となる。水路には水の神、かまどには火の神、いろいろなところに神がいて人は神を祀り崇めてきた。大地から懇々と湧き出るお湯にも神の力が宿っていると考えたのも不思議ではない。平安時代の『延喜式』神名帳は、全国の神社の一覧を公に初めて記載されたものと言われている。その中に温泉神社が含まれ、そこには湯田川温泉の「由豆佐売神社」が記されている。※1 この由豆佐売神社の「由」は、『倭名類聚抄』に「温泉一に湯泉(ゆ)とも言い、和名由(ゆ)」と記されるとおり「ゆ」と読む。由豆佐売とは湯出づる沢の泉源地を司るヒメ(女神)を表し、由豆佐売神社は泉源の女神ユヅサメを祀る社であったとう。※2中公新書石川理夫著『温泉の日本史』由豆佐売神社が本来祀っていたユヅヒメはいつしか記紀神話の女神溝樴姫命に置き換わった。そして、溝樴姫命を主神に、少彦名命、大己貴命の二神を陪神に祀るようになった。 湯田川温泉の守り神でもあるこの神社では、毎年4月30日には宵祭、5月1日には本祭を行い、1日正午頃から湯田川温泉街などを神輿の行列があり、かつては、人々は着飾り、振袖を来て歩いたとか。神社の行事は現在も温泉街に暮らす人々の暮らしに崇敬厚く残っている。 開湯は奈良時代 湯田川温泉の開湯は今からおよそ1300年前の712(和銅5)年。温泉で傷を癒している白鷺を見て発見されたと言われている。後の室町時代に、眼を患った牛がその角で地を叩いたら湯が湧き出し、その湯に入り眼がよくなったという伝説により田の湯が発見されたと言われる。これが現在湯田川温泉にある「正面湯」と「田の湯」という二つの共同浴場となる。 「正面湯」は温泉街のちょうど真ん中にあり、湯屋の正面に立つと、破風付きの立派な黒瓦屋根が目に入る。振り返ると「しらさぎの湯」という足湯と、その脇に石畳と板塀の路地がまっすぐ由豆佐売神社へ続いている。「正面湯」の正面、温泉街を見下ろす高台に由豆佐売神社はあるのだ。「正面湯」から出てくる人を見ていると、神社に向かって一礼する人が少なくないことに気づく。ここで暮らす人たちにとって、お湯をいただいた後に感謝の気持ちを忘れずに表すのはごく当たり前のこととなっているのだ。 神社の鳥居をくぐると、その先に苔むした石段と両脇に樹齢いくばくかの杉並木が出出迎える。石段を登ると右手に樹齢1000年と言われる県指定天然記念物の乳イチョウの巨木がそびえ立つ。現在の本殿は明治15年に旧鶴岡警察署庁舎や旧西田川郡役所などを手掛けた庄内の名棟梁「高橋兼吉」に建築されたものである。 湯田川温泉には、藤沢周平をはじめ、斎藤茂吉、横光利一、種田山頭火、竹久夢二といった歴史に名を残す文人墨客も逗留している。湯田川温泉に来たら、先ず「由豆佐売神社」に足を運び、これまでのこの地の歴史に思いを馳せ、湯の神に手を合わせてみるのも良い。由豆佐売神社や湯田川温泉の歴史について詳しく知りたいときは、「湯田川音楽館ぱっころ」(※1)の2階で資料を閲覧できる。 正面湯 正面湯に入るには、滞在している旅館で鍵を貸してもらうか、正面湯から50メートルほど温泉口に戻ったところにある船見商店で入浴料(200円)を支払う。正面湯の鍵を預かってから30年になるという船見里さんが一緒に正面湯まで来て鍵を開けてくれた。 湯屋の木枠のガラス戸を開けて中に入ると、頭上に「由豆佐売神社」のお札が。脱衣所には造り付けの木の棚があるだけで、洗面台もドライヤーもない。浴場には石鹸やシャンプーの類いは一切なく、もちろんシャワーもない。あるのは椅子とケロリンのあの黄色い湯桶のみである。 それほど大きくはない湯船からは惜しみなく天然掛け流しのお湯があふれ流れている。湯田川温泉は毎分約1,000リットルという豊富な湧出量で加水、加温、循環を全くしていないという純粋な天然温泉。なんと贅沢なのだろう。熱過ぎず、肌に柔らかいお湯は気持ちよく、ついつい長風呂してしまうという。普段は地元の人の声が飛び交う浴場もこの時はこんこんと溢れる湯の音が響いていた。 湯田川温泉にお嫁に来て48年くらいという星川さん、暮らしの中に温泉は欠かせない。じぶんの家のお風呂より仕事を終えて、夕方入る正面湯での会話が楽しみという。今は、コロナで仕方がないけれど、地元の人だけではなく、外からきてくれる人との会話が楽しくて、また湯田川温泉に入りに来たいと思ってもらえたら嬉しい。そして住民の人の暮らしの中にあるこの共同浴場をこれからも守っていきたいと話してくれた。 長い歴史の中でかつては茶屋や遊郭もあり賑やかな時代もあったが、現在は落ち着いた街並みを残しながらも温泉に暮らす人々は、訪れる者に対しいつも温かく優しく迎えてくれる。湯田川を訪れたら是非ここの歴史と文化と人に触れてその魅力を掘り下げてもらえたらと思う。 ※1 湯田川温泉音楽館 ぱっころ 〒997-0752 山形県鶴岡市湯田川乙72 正面湯 営業時間 8:00〜19:00 (9:00〜11:00は清掃のため入浴できません) 定休日 無休 入湯料 300円 泉質 ナトリウムカルシウム硫酸塩泉