ますや旅館
古くから湯治場として愛されてきた湯田川温泉。『ますや旅館』には今でもその名残りでプチ湯治をしに訪れる昔馴染みの客が多く、長く愛されてきたお宿だということがよくわかる。アットホームという言葉がぴったりな温もりのある温泉宿。家族で営む小さな旅館ならではの心地よい雰囲気で、親戚の家に帰省するような感覚で何度でも訪れたくなる。
名物は古代檜で作られた貸切風呂。空いていればいつでも入れるスタイルで、滞在中は何度入ってもいい。湯田川温泉の良質な湯を独占して楽しめるのは贅沢そのもの。以前はタイル貼りだったという貸切風呂は、平成の初期に檜に改装されたという。味のある檜の浴槽に湯気が広がり、見た目にも趣きがある。ゆっくり浸かれば、身体が芯からほぐれて元気になっていく。
『ますや旅館』といえば、湯田川の旬を生かした料理が人気。特に評判が高いのは手作りのあんかけ、そして何と言っても春の孟宗膳。(孟宗とは、庄内地方で採れる筍のこと)ご主人の良徳さんが竹林に入り収穫をしたばかりの孟宗が、女将によって美味しい料理に姿を変える。新鮮な孟宗を食べたことのない人は、サクッとした軽快な歯ごたえと甘さに驚くだろう。
夏は岩牡蠣、秋は在来野菜のかぶ御膳、冬には庄内名物鱈のどんがら汁 等々。旬の食材を使用する料理の数々は、決して派手ではないものの、ひとくち食べてみると沁み渡る、とても家庭では作ることのできない美味しさだ。旬の食材を食すことで、大地のパワーを存分に受け取る。湯田川温泉に特別なものはひとつもないけれど、根源的なものが全て揃っている。口コミでも人気の朝食バイキングもお楽しみのひとつ。
オレンジ色のあたたかい光が印象的な館内。お部屋の入り口に置かれた行燈も手作りだ。綺麗な竹を乾燥させて行燈に作り変えるというのだが、この作業がなかなか難しいという。乾燥しすぎると縦に亀裂が入ってしまうし、綺麗に切れたと思ったら、ライトの熱で割れてしまう。一筋縄でいかない竹だが、湯田川らしいその姿にこだわりを持って作り続けてきた。
東日本大震災以降、毎年3月11日には竹灯籠のライトアップを行なった。雨の日や風の日も多かったが、10年間湯田川の温泉街を優しく灯してきた。まるで『ますや旅館』にいくと感じる温もりが、そのまま光として表現されているようなキャンドルナイトの風景。日々の生活の中でつい忘れてしまう人のぬくもりや温かさを肌で感じるようだ。
おかえりなさいの宿 湯田川温泉『ますや旅館』は、現代の疲れを癒し訪れる者に元気をくれる。
湯田川温泉『ますや旅館』公式HP:https://yu-masuya.net
写真提供:湯田川温泉観光協会
- ・投稿者の名前:
- すずき まき
- ・プロフィール:
- 写真家。2020年、生まれ育った横浜市から鶴岡市にiターン移住。 温泉と猫をこよなく愛している。
- ・SNSやホームページへのリンク系:
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