湯田川の芽出し作業~お米の産湯
湯田川の芽出し作業~お米の産湯
温泉は、入浴や飲泉だけでなく広く利活用されています。例えば高温源泉を活かし、熱交換器システムで施設の給湯や床暖房、消雪に使うなど。そんな現代的な利活用でなくとも、温泉水そのものや温泉の蒸気を活かした料理など、欠かせない我々「人間の食」に結びつくような利用法は立派な「温泉文化」ですから、大切にしたいものです。
湯田川温泉で毎年4月に行われる温泉水を使った種籾の「芽出し作業」は江戸時代から続く伝統で、まさに「温泉文化」。
その年の稲作のスタートである芽出し作業。浸種といって、まず昨年刈り取った種籾を袋に入れ約10℃の水に数日間浸けた後、催芽機という機械に種籾を並べ32℃設定の水に浸し、その後保温します。
「芽出し」というものの、芽が伸びすぎるとその後に種蒔きで使う播種機に引っかかってしまうので、芽が膨らむくらいの状態、発芽するかしないか、いわゆるハトムネ状態の絶妙な加減でなければいけないそうです。
湯田川温泉では、催芽場に複数ある温泉水の水槽に浸けて芽出しします。それが可能なのは源泉温度が42℃で、余り湯が水路を通り催芽場の水槽に流れ着く頃には、ちょうど芽出しに最適な32℃前後になっているから。水槽には袋入りの種籾が12時間前後浸かります。半日浸かった種籾は、水槽に渡した枕木に並べられ臺を被せ、温泉の蒸気でそこから更に半日あまり蒸され発芽を促します。つまり、天然の催芽機になっているのです。もうね!ググってみてくださいよ、こんな催芽法、湯田川しかありませんから!
この催芽法は、嘉永元年(1848年)に大井多右衛門が試行錯誤の上に生み出し、先人たちが改良して今に至るもの。江戸時代から脈々と受け継がれ行われる湯田川の芽出し作業は、今も変わらずリレー方式の手作業で、重さ8キロの袋を慣れた手つきで水槽に浸していきます。
今では庄内一円、そして新潟からも運ばれ、ピーク時になると催芽場に袋が壁のように積み上げられ、水槽にもびっしりと浸されます。外気温との差で水槽にもうもうと湯気が立つ様は、まるで「お米の産湯」のよう。
温泉国日本には、個性豊かな素晴らしい湯がたくさんありますが、もしこの湯が、もっと濃い成分で泉温も高く、塩分が多過ぎたり、酸性だったりしたら「産湯」として成り立ちません。湯田川の湯は芽出しに必要な絶妙な条件を満たしているからこそ、天然の催芽機であり、お米の産湯になっているのです。
そうして気持ち良さそうに「産湯」に浸かった種籾は田に植えられやがて秋、黄金色の稲穂が一面に広がる景色と共に、湯田川に美味しいお米となって戻ってきます。そして庄内の豊かな食材と共に私たちの口へと運ばれてゆくのです。だから、ね。孟宗筍の時期はもちろん、お米が産湯に浸かる光景が見られる春、そして鮭の遡上のように湯田川の産湯に浸かり美味しいお米になった秋も、柔らかな湯と共に湯田川の食、空気感を味わいにいらしてくださいね。
※取材協力
JA鶴岡 営農販売部 米穀畜産課 課長 五十嵐浩紀さん
湯田川地区 石井邦也さん
- ・投稿者の名前:
- 伊藤博美
- ・プロフィール:
- フリーアナウンサー/温泉ソムリエアンバサダー。 東根市出身・在住。活動内容はCMや番組ナレーション、司会など。 7年前から温泉ソムリエとしても活動し、現在月刊山形ZERO23にて県内の温泉を紹介する「伊藤博美のひとっぷろばんざい」連載中。
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